アナーキストは消え去った











「名ばかりの自由を求めてどうするんだ!」
彼らはそう主張続けていた。
でも、私は知っている。
そんな彼らもいつかはいなくなっていたって。










アナーキストは消え去った










私の国はキング政治というものがある。
その名の通り王中心の政治で、国民は困っていた。
彼らは国民に貧困を虐げ、難民を救済しようとは思っていないのだ。
だから、アナーキストが現れた。

「こんなんだったら、政府なんていらないじゃないか!」
「今こそ我々で国を変えていくときだ!」

初めのうちは皆賛成した。
国を変えようと頑張った。
でも、無理だったのだ。
王の前では赤子同然。アナーキスト達は次々と闇に葬り去られていった。

「妃荻……。キミはどうするの?」

私の友人――もしかしたらそれ以上の――零雅が尋ねてきた。
首を横に振って私は答える。

「まだ…わからない。アナーキスト達につくか…それとも今のままか…」
「そうか。俺はアナーキスト達に賛成だよ。だから、そっちを応援する。例え消されても頑張るさ」
「消されるだなんて…!」
「大丈夫だから、心配するなって」

零雅はそっと微笑んだ。
それでも私は不安だった。
今まで王に刃向かった人はいつの間にか行方不明になっている。
帰ってきた者はいない。
だからこそ、私は不安だった。
アナーキズムを主張することは、王に刃向かっているのと同じこと。
いつか零雅もいなくなってしまうんじゃないか。そんな不安が取り巻いて離れなかった。



冬が過ぎ去り春が訪れた。
私たちの生活はかわらず貧乏のままだ。
お腹いっぱいにご飯を食べることすらできない。
朝から晩まで働きっぱなし。

「零雅? どこに行くの?」

私は大きな荷物を持ってどこかへ向かう零雅に話しかけた。
悪いことでも見つかったような表情をしていた。

「……言っておくしかないよな。今から王を暗殺しに行くんだ」
「い…今なんて…?」
「王を暗殺しに行くんだ」

力強く憎しみがこもったように彼は言った。
私はというと、手が震え冷たくなっていった。

「やめてよ…! アナタはそんなことする人じゃ無かったはず!」
「やるしかないんだ。誰かがやらないといつまで経っても変わらない!」

もう零雅には私の声は届かなかった。
彼を止めることはできなかった。
そして、彼は王の元へと向かった。私を一人置いて。


「聞いた? 王を暗殺しようとした奴らがいるのよ」
「本当に? それでどうなったの?」
「さあね。行方不明だよ」

私がその話を聞いたのは三日後。
結局彼は帰ってこなくなったのだ。
止めたのに。止められなかったのだ。
必死で止めれば良かった。私も行けば良かったのだ。
残るのは後悔ばかりで、とても辛かった。

「妃荻」

そう呼ばれたような気がして振り向いた。
でもそこには誰もいない。
もう誰もいない。振り返っても笑ってくれる人はいない。
両親もいない私にとって、彼だけが家族だった。
だけど、もういない。本当にいない。
誰ももう誰も。辛くて悲しくて苦しくて。

「妃荻」

また聞こえた。
きっと空耳なんだろう。
だって私は一人なのだから。

「妃荻ってば」

もう呼ばないで。
その名前を呼ばないで。
誰も私を呼ばないで。

「妃荻!」

誰かに叩かれた。
それで振り向いた。
そうしたら、驚いたことに零雅がいた。
変わらない顔。少し怒っていた。

「無視はやめろよ」
「ごめんなさい…。零雅はもういないと思っていたの」

彼は吹き出した。
心底笑ったあと、耳元で話を続けた。

「俺が王様になったんだ」
「でもさっきの噂は…」
「王は死んだよ。ただそれを知らせてないのさ」

すっと零雅は耳元から顔を離した。

「明日にでもキング政府は壊滅させる。王の命令だ」
「…そう」
「無くすんだ。この国を自由にさせる」

そして零雅は散る桜の花と共に姿を消した。
彼の言うとおり、翌日に政府は無くなった。

『もうこの国は自由です! こんな国になってしまうんだから政府は作ってはなりません。二度と!』

それが王の言葉だった。
王に縛られていた税も消え、私たちの暮らしは楽になった。
飯をお腹いっぱいになるまで食べられるようにもなった。
私もそれなりに豊かな暮らしになっている。
これも全て零雅のおかげなんだろうと思う。
貧乏の地獄から脱出した私たちは、今や自由の天国にいる。
こうやって零雅と一緒にどこかへ遊びに行くことが出来る。

「アナーキストたちはどうなったの?」

ふと気になったので、私は零雅にそう尋ねた。

「いなくなったよ。全て。だってもう自由なんだから」
「そうよね…」

突然近くの団子屋が騒がしくなった。
何が起こったのか。
目に映ったのは数人の男達。
手には剣。目は鬼のように。
『自由』その言葉を口にして。

「自由なんだから人殺しだって自由だよなぁ?」

狂い満ちた彼らはそう言って店の中に押し入った。
当然聞こえてくるのは叫び声。

「自由ってなに?」

私は自然とそう聞いていた。
零雅は答えなかった。ただ店の方を見て、怯えていた。

「こんな自由を求めていたの?」

また叫び声。
逃げまどう人々。
でも私は逃げることもせずにただただ見ていた。
男達が満面の笑みで店を出てきた。
こちらを見て、再び笑っていた。

「ねえ、答えてよ。こんな自由が欲しかったの?」

誰も答えてくれなかった。
隣に零雅はいなかった。
きっと逃げたんだと思う。
男達は一斉に刃を私に向けたのだった。


ツルギニヒトシズクノ、アカイミズガナガレマシタ。

ジユウトイウナノモトデ。




モドル