「ねぇ、生きていると証明出来る?」
「さぁ…考えたこともないですからねぇ」
生きていることの証明。
普通に生きていれば、考えることなんてないだろう。
「リスカする人達は、自分の血を見て生きていると実感するようですが?」
「うふふ…。そう考えるのも間違いでないよ。でもね、もしこの世界が、『生きている場所』が実在するといえるかしら」
自分自身が存在しているのだから、その自分がいる場は存在しているのだろう。
それは家であり、地域であり、国であり、世界であり、地球であるはずだ。
「そう。『自分が存在しているから。』その考えはどこから? 本当に存在しているかしら」
「存在していなかったら、今僕はここにいませんよ」
「いいえ。あなたは私の想像した人物かもしれない」
ならこの気持ちも、感情も、考えも、全て想像上の物だというのだろうか。
嬉しいや悲しいは個人個人の感じ方ではないのか。
そもそも、何故僕はこの人と話をしているのか。
僕が話したいから話しているわけでない。
ならば彼女が話したいから僕と話しているのか。
「自分というのがどうして存在するのか。それを突き止めることはできないわ」
「どうしてですか?」
「突き止めるには、『どうして命が生まれたか』に遡り、そして『宇宙は何故存在するか』に繋がるからよ」
自分が存在する。それは生命が存在するからであり、その生命の居場所となる場、宇宙が存在しなければならない。
彼女はそう付け加えた。
「でも不思議にならない? 自分という意識体。レゾンデートル」
「普通考えはしないですから」
「普通、ね。さて、あなたは今何をしている?」
「何って、会話ですよね」
あまりにも面白くない会話だけれど。
「じゃあ何を考えているの?」
「その問いの答えを…かな」
よろしい、と彼女は笑う。
「なら、私が考えていることはわかるかしら?」
「わかるわけないですって」
「そうね。わかるわけない。つまり『他の人が存在すると証明できない』でしょう?」
話がわからなくなってくる。
必死についていこうと頭が頑張るが。
「自分のことはコントロールできる。でも他の人を脳が命令しても動かすことは出来ない」
それは当たり前だろうと思う。
「それはこう考えるわ。自分以外は生きていない。プログラムされているのかもしれない」
「…無理がありますよ」
「想像力が足りないわね。例えば、星を一個用意する。そこにプログラムしたNPCを用意する。そして最後に生命体をひとつ合わせれば、世界の出来上がりよ」
不可能ではないだろうか。
生命が棲める環境の星が、そう簡単に見つかるのか。
それに理由がない。そこまでする理由がわからない。
「あなたは理由がないと行動出来ないの?」
「そういう訳じゃなく、どうしてそこまでしなくちゃならないんですか」
「さあね。面白目的か、実験目的か…」
「それに星は? どうやって用意を?」
「生命体が棲める星なんて、この無数の星の中から一つは見つかるでしょう。もしかしたら発表していないだけで、もう見つかっているかもしれないし」
「それで、結局何が言いたいんですか」
「つまり生きているなんて証明できないんじゃないかしら」
クエスチョンマークが飛び交っているはず。
「死ぬこともはっきりと言えない。もしかしたら脱皮みたいな現象かもしれない」
死ぬこととは心臓が止まり、呼吸もしないことではないだろうか。
「それは体の話。この意識はドコに行くのかしら」
「さぁ…」
「ふふふ。死ぬことも証明できないのに生きているなんて証明できないわ」
彼女は手を組む。祈りのようだった。
「神のみぞ知る…ね」
神、なんて彼女は信じてる感じがしない。
僕も実際信じていないけど。
そして。
さようなら、と彼女は言った。
でも僕の目の前からは消えない。
いや、消えるはずはない。
僕はもう一度僕を見た。
そこには彼女は映っていない。
鏡に映っていたのは僕だけだった。
はたして鏡の中の僕は彼女だったのだろうか。それは生きているのだろうか。
そもそも鏡の中の僕はどっちだろう。
モドル